不登校・引きこもりのお子さんの支援をしていると、しばしばお母さんからお父さんに対する以下のようなお悩みを聞くことがあります。
- 「父親が不登校に無理解で困る」
- 「父親が不登校の子どもを𠮟りつけてしまう」
- 「父親が普段から子どもと接しない(関係性を作れていない)」など
不登校はお子さんだけの問題ではなく、家庭の問題です。
元々家庭内に何らかの問題があったものが《不登校》と言う形で表出したと当協会ではとらえているため、家庭内の問題を解決することがゆくゆくは不登校解決に繋がると考えています(家族療法)。
その観点で言うと、お父さんがお子さんを怒るのは本質の解決にならないかもしれませんし、父母で意見が違っているとお子さんが余計に混乱します。
今回は、不登校の子をつい怒ってしまうお父さんの心理を整理するとともに、怒ってしまうお父さんへのお母さんの対応ポイントについて解説します。
不登校の子をつい怒る父親の心理
子どもが不登校になると、つい怒ってしまうお父さんは多いです。そして以下のような言動を取ることも。
- 子どもを無理やり学校に連れて行こうとする
- 子どもの話を聞かずに叱る
- 「そんなんで将来どうするんだ」と責める
- 「なんで学校に行けないんだ」と問い詰める など
不登校の子へのフォローをお母さんが頑張っていても、お父さんがこの調子では家庭内のバランスが保たれず、お子さんも不安定な状態が続く可能性が高いです。
つい怒ってしまうお父さんには不登校についてもっと知ってほしいと思いますが、まずはなぜこのような言動を取ってしまうのかについて、怒るお父さんの心理を見ていきましょう。
子の将来が不安
お父さんが無理やり再登校させようとするのは、お子さんの将来を心配してのことでしょう。子どもへの愛があるからこそ「失敗してほしくない」と思う親心です。
特に、今まで体育会系でキツイことも頑張ってきたり、受験戦争を勝ち抜いて高学歴だったり、職場で役職を得ているようなお父さんは、「自分はキツイことも頑張って乗り越えてきたからこそ今がある」と思ってしまい、子どもに登校を強いてしまう傾向が強いかもしれません。
「自分と同じ道を歩んでほしい」願望
高学歴や経歴を自負しているお父さんに多いのが、「子どもには自分と同じ道を歩んでほしい」と内心で考えているケースです。特に息子さんへ期待するケースが多いように思います。
「自分は成功している」という自負・プライド、そして子どもも成功してほしいという気持ちから、自分と同じ道を歩むのが良いと思っているのですね。自分が歩んできた別の道を知らないから、自分と同じ道を勧めているケースもあります。
特に昭和世代の親の子ども時代は不登校は少数派だったので、「不登校になったらもう普通の生活は送れないのでは」といった不安を感じやすいかもしれません。
育児にあまり関わらなかったことからの動揺
仕事中心の生活を送ってきたお父さんの場合、子どもが不登校になってはじめて家庭に目を向けたという方もおられます。
それまではお母さんに家事育児を任せきりで、あまり育児に携わってないお父さんは子どもが不登校になったときに急に焦って動揺し、子どもに怒りやすくなることもあります。
仕事中心で過ごしてきたお父さんは、不登校をきっかけに改めて子どもと話してみたら、いつのまにか子どもがかなり成長していて反論や反発も予想以上でびっくりしてしまい、負けじと怒鳴りつけてしまう…というのも良くあるケースです。
「自分は頑張ってきたのに」という悔しさ
父親が不登校の子を責めるとき、その背景には「自分は頑張ってるのに」という気持ちがあるケースもあります。
共働きが増えたとはいえ、「自分が一家の大黒柱」「家族のために辛い仕事も頑張らなければ」と自分を鼓舞して日々苦しい仕事に励んでいるお父さんも多いです。
辛い仕事でも家族のためにとギリギリで踏ん張っているお父さんからすると、学校に行かない子どもはただ甘えているように見えてしまうのです。
父親が不登校を怒るときの母親の対応ポイント
ここまで、お父さんがつい不登校の子を叱る心理について見てきました。
怒る背景には、「子どものために、良かれと思って」「社会で生きていける強い子にしなければ」という我が子への愛があるのですが、お母さんから見ると過剰に怒り過ぎたり、「今じゃない」というタイミングで怒っていると感じることがあるかもしれません。
だからと言って、お父さんの対応を責めたり指摘すると夫婦げんかに発展し、家庭内が一層良くない雰囲気になる恐れもあります。
ここでは、不登校を怒るお父さんへの対処法をまとめていきますね。
父親の不安を整理する
心理学では、怒りは二次感情と言われています。つまり、怒りが発生する前に一次感情としての不安や焦り、虚しさなどの感情があるはずです。
そして、一次感情が大きくなればなるほど、二次感情もまた大きくなると言われています。
つまり、「子どもが不登校になった」ことに対し、不安や焦りなどを強く感じれば感じるほど、怒りも強くなるのです。
お父さんが怒るということは、怒りが強いほど、背景に強い不安や焦りがあるということです。まずはその不安を顕在化していきましょう。
不登校の不安は色々あります。
高校生であれば単位が足りなくて卒業できないのではという不安、進学先が限られるのではという不安、反発され会話にならない不安…漠然とした不安を1つ1つ切り離してからそれぞれ対策を考えたり調べたりすることが、不安感の軽減に繋がります。
怒っても解決しないことを経験させる
子どもの不登校は、基本的に叱ったり怒ったりしても解決できるものではありません。怒って一時的に再登校できたとしても、根本原因が改善されていなければ、すぐに再不登校に戻ります。
「ただ怒ってもだめ」というのをお母さんから言ってもお父さんが納得いかない場合や、そもそも頑固な性格だった場合は、お父さんが怒るのを止めさせるのは難しいこともありますよね。
そのような場合は「怒っても復学できなかった」という経験を、一度お父さんにしてもらうのも1つの方法と言えます。自分のやり方ではダメなんだということを知ってもらうのです。
ただ、あまりに怒りすぎるとお子さんが精神的に不安定になる可能性があるので、早々に切り上げて対話の方向に持っていくことが大事です。
専門家に間に入ってもらう
頑固なお父さんには、間に専門家に入ってもらうことがおすすめです。
「不登校はなり始めの対応が大事」「不登校は甘えじゃない、根性でどうにかなるものでもない」といったことも、妻から言われるのと、専門家から言われるのでは説得力に違いを感じるお父さんも多いからです。
男性はロジカルに数字や根拠で詰めていくと納得しやすいなどと世間でも言われていますが、専門家が今までの経験を踏まえて話すとガラリと家庭内対応を変えてくれるお父さんも多いです。
お母さんがどうしてもお父さんを説得しきれないと感じた場合は、専門家を間に挟むと良いでしょう。
場合によっては諦める
色々頑張ってはみたけれど、どうしても父母で意見が合わない場合もあるかもしれません。
家庭教育推進協会へも、父母の意見の不一致のお悩みがよくあります。
例えば、高校生のお子さんがゲーム依存で昼夜逆転しており、お母さんはゲーム時間を制限しようとしているご家庭で、お父さんがリビングでスマホゲームしてしまうようなケースです。
「お父さんもゲームを止めて」というお母さんにお父さんが反発するような場合は、父母で一枚岩で子どもにゲーム制限はさせられませんよね。
このような場合は、本質的ではないですがお父さんは自室でゲームしてもらい、子どもの前でゲームしない仕組みも必要だと思います。本当は家族療法としてはお父さん自身のゲーム依存も治す必要がありますが、時間がかかりそうなのでまずは緊急性のあるお子さんのゲーム依存から改善するということです。
そのため、場合によってはお父さんの対応を諦めてお母さんだけで不登校対応するというケースもあります。
不登校対応はマニュアル化ができません。当協会では原則家族療法の考え方でご家庭をサポートしていきますが、ご家庭によっては家族療法がハードルが高いこともあり得ます。そのため、お子さんだけでなく、親御さんの状況にも応じて、最善だと思うものを柔軟にサポートしていきます。
「不登校をつい怒る父親の心理まとめ!母親はどう対応すべき?」まとめ
不登校の子に「学校に行きなさい」と頭ごなしに叱る父親は意外と多いです。特に昭和世代や体育会系で育ったお父さんはそのような対応になってしまうかもしれません。
家族療法では、不登校は子どもだけが悪いのではなく、元々家庭内に何らかの問題があって、それが不登校という形で表出していると考えます。
そのため、「家庭」という単位で考えたとき、お父さんとお母さんが共通認識のもとで言動することが大事です。
ですから日々の家庭内対応では父母が一枚岩となって言動することが大事なのですが、不登校などの問題を考えるとき、夫婦でなかなか意見が一致しないこともよくあります。
もしお母さんだけでお父さんを説得しきれない、解決が難しいと思われた場合は、早めに第三者に相談されることをおすすめします。